私にとって不思議な存在であるもののひとつに風がある。貴方は風を見た事がありますか?
 木々の小枝が揺れてサワサワと音を立てる時、甘い花の香りがスッと横切る時、そこに風が存在している事を知るけれど、風自身の姿は何処にも見えない。
 風はいつも気まぐれで、いたずら好き。空のキャンバスに雲を使って落書きをしたりする。ある日私は青空に2頭立ての馬車に乗ったアポロの姿を見つけたが、次の瞬間、馬は手綱を切って逃げ出しアポロの姿もみるみる消えていった。時には芸術的な絵も描くくせに自分でくしゃくしゃに消してしまったりする。
風  美しく咲いた花を揺らして実を結ばせるのを助けるのも風の役目。空を飛ぶ鳥達を影で支えているのも草木の種を遠くへ運ぶお手伝いをするのも風だ。一見怠け者のように見えて、意外と働き者の面もある。
 風は火を燃え上がらせ大きな炎へと変え、水面を走って波立たせ、雨を斜めに降らせる。自然のあらゆるものに働きかけ、自由気ままに存在している。
 その姿を追う私をからかうように、不意に風は現れて私の髪を乱し、頬の熱を奪って去って行く。傍らの小さな花が小刻みに揺れる。それはまるで風が残していった微笑みのようだ。
 どんなに風に近づきたくても明るく照らす暖かいキャンドルの炎のように、心を和ませる可憐な花のように風を大切にしまっておくことはできない。狭い所へ閉じ込めてしまえば、風は風でなくなってしまう。束縛されず自由でいる事が一番風に似合っている。
 大好きな風に逢いたい時は、五感を研ぎ澄ましてじっと待つ。そうすれば、ほら感じる事ができるはず。風の声、風の匂い、風のぬくもり.....。例え姿は見えなくても私達のまわりにいつも存在している事が。




「Mind Prism」のTOPに戻る