Autumn−秋−


 澄んだ空に浮かぶいわし雲、爽やかな風、まぶし過ぎない朝の光.....私の大好きな秋。
 秋は豊穣の季節。稲穂は黄金色に変わり、そよ風にゆったりと身をまかせ、光り輝く金色の波になる。木々には果実が実を結ぶ。夏の陽射しを集めたような蜜柑、夕焼けに映える柿、朝露にエメラルドのように輝くマスカット.....。森の中ではどんぐりやきのこ、あけびやカラスウリなどを見つけることができる。小さな森の住人達は厳しい冬を越すために、せっせとそれらを蓄えているのだろう。
autumn  紅葉は春に咲く花々に匹敵するほど鮮やかだ。夕暮れに家々の窓に灯りが点るように黄色や赤の見事なグラデーションでポツリポツリと山の斜面を明るくする。
 街の中でさえ、色とりどりのコスモスの群れが描く点描画を見つけることができるし、どこからともなく吹く風が運んで来た甘い香りが金木犀の開花を知らせたりもする。街路樹のイチョウ並木の木もれ陽は、暖かな黄色で、落葉の絨毯の照り返しが、舗道を歩く人々の顔を明るく見せる。
 秋の夕暮れは特に印象的で、山の谷間に沈む夕陽は、紅葉に彩られた山の輪郭をまぶしいくらいのオレンジ色で形どる。山の際に漂う雲から順々にほのかに紅く染めていく。夜の闇が訪れるまでのほんのわずかな美しい瞬間。
 海へ沈む夕陽は、また趣を異にする。穏やかな波の静かな秋の海に、ゆっくりと溶けていく朱色の夕陽は、時間をかけて水面と空の両方を染めていく。丸く大きな太陽が音も無く海に溶けていく様を潮風に吹かれながらじっと見つめる。日中はまぶし過ぎる太陽も夕暮れ時ならば見つめることができる。その最後の輝きを瞳に焼きつけて迎える夜はとても静かだ。
 ゆったりと時が流れる夜にはハーブティーを飲みながら、明るい月や輝く星達を覆うように流れるオーガンジーの雲の行方を眺めたりする。ハイビスカスティーの紅色は、夕陽に映える紅葉の色をレモンジンジャーの芳香は、早朝の秋の森を思い出させる。お気に入りのティーカップに口を運ぶと熱い液体はすーっと身体に浸透していき、胸のあたりからポカポカと温めてくれる。
 とりとめのない事を綴った手紙を誰かに出そうか....。それとも何処かへ旅に出ようか....。燃えるような夏の火照りを鎮めて、凍える冬を迎える前のつかの間の季節。あなたの住む街に訪れた秋は、どんな表情を見せていますか?




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