Moonlight


 夏も終わって次第に夜の時間が長くなり始める頃、部屋の窓を開けて虫達の合唱を聴きながら夜空に浮かぶ月を眺めるのが好きだ。月の姿はいつも同じではなく、その色も形も大きささえも変化している。輝く真珠のように見える時もあれば、大きくて赤い夕日のような時も、細長く痩せて眠たい目のようなお月様も....。

 月は太陽をうつす鏡。同じように空に浮かんでいても太陽は、あまりにまぶし過ぎて遠い存在。でも月はずっと近くて優しい。月自身はいつも同じ形で存在しているのに、太陽と私達の住む地球との位置関係でその輝きを変化させている。
月の光を見るという事は、太陽の存在と、その中に地球の存在も確認しているという事なのだと思う程に私の月への関心は尽きない。それは、あまりにも当たり前過ぎて誰もが特別気に止める事ではないかもしれない。しかし、少なくとも私自身には月は様々なインスピレーションを与えてくれている。

moonlight  あれは数年前の事、月の光が今まで見た事もないほど蒼い夜だった。いつもはブラインドを閉じ、灯りを点して眠りにつく前のひとときを読書などして過ごしていたのだが、その夜は月光の青さを確かめたくて、ブラインドを上げ、部屋の灯りを消してみた。南に向いた窓からは蒼い光が差し込み、それが白い部屋の壁に反射して部屋はブルーに染まった。開けた窓からはそよ風がそっと優しく忍び込む。窓辺に置いたベッドに身を横たえると、私はまるで海の底の生き物になったような錯覚におちいった。波間をゆらゆら漂う様に身体の力を抜くように深呼吸する。吐いた息が気泡となって消えていくような気がした。それは魂を開放するかのようなとても神秘的な瞬間だった。蒼い月の光に抱かれて見た夢は、今はもう覚えていないけれど、あの青い夜を忘れることはないだろう。

 会いたくても会えない人を想いながらベランダで夜風に吹かれつつ見上げた月は、星達のきらめきの中で金色に輝いていた。あの人も同じ月を見て私と同じ事を考えているのだろうか....。太陽の光の下では見せられない私の涙も月は知っている。他愛のない独り言も心の中のつぶやきもじっと黙って聞いてくれる月。
切ない心に月光はレモンの雫になって降り注ぎ、キュンと胸を熱くする。

 今夜も仕事を終えて帰路へ着く時、見上げた夜空に月を探す。それは輝く銀貨だったり、オレンジのかけらだったり、ゆったりしている時の猫の瞳のこともある。そしてそのどれもが愛しく、どれもが懐かしい。「お疲れさま。」そっとつぶやく私に月の光はいつも優しい。




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